素晴らしき放浪者の戯言

100年に1度の世界の大転換、50年に1度の日本の政権交代を見届けるブログです。 政治、経済、メディア、都市、映画etcの各分野を放浪しつつ 時たま核心に迫ります。

映画 「渇き。」 後編





   〔カタルシスの不在〕 ~ エンタメ否定のエンタメ化?~

     本作はリンチ、暴力、レイプ、銃撃戦と暴力描写が著しい。
     これまた20世紀的映画常識では暴力描写はカタルシスがセットになっている。
     東映任侠映画はもちろん、実録路線もアクション映画もエログロ路線もカタルシスがつ
    いてくる。ホラー映画、スプラッタームービーはストレートにカタルシス喚起しないが、あ
    る種の過剰、すなわち突き抜けていると笑いを促しその先にカタルシスがあるものです。
     中島監督作品も「下妻物語」、「嫌われ松子の一生」、「告白」と必ずカタルシスが盛り
    こまれていました。これら一連の諸作で新しいエンタメ化を図ってきた中島監督もエンタ
    メ化のお作法は踏襲してきました。
     本作にはどこにもカタルシスがないように思います。
     強いていうと、浅井刑事(妻夫木 聡)が父・昭和(役所広司)に車ではね飛ばされる
    シーンだろうか?「アウトレイジ」か続編か忘れたが、「カネより出世だよ」とウソぶく男
    を地でいくこしゃくな刑事が始末されるのだから。

      tumabuki
       妻夫木 聡はTV「砦なき者」でも役所広司と共演している。あの時も悪役
       だった。結構、悪役もやるのだがイメージが傷つかないことに私は関心
       している。 

     
     エンタメ化に不可欠なカタルシスが盛り込まれているようでそうは問屋が卸さない
    のが本作だ。
     一件落着そうでもさらに裏があって云々というのがハードボイルドの定石だが、本作
    も亡霊のような後日談が待ち構えている。父・昭和と元担任の東 里恵(中谷美紀)の
    娘・加奈子を巡るやりとりだ。
     このシークエンスでまたもや不可解となる。
     いったい、何に突き動かされて昭和は雪に埋もれた娘・加奈子の遺体を掘り起こそ
    うとしているのかさっぱりわからない。
     おかげで20世紀的エンテメ化はまたもやくじかれる。
     さりとて、何かを暗示したり告発するリアリズム映画でもなく、ましてゴダールやタル
    コフスキーのような難解な映画でもない。
     そう言えば、北野武「DOLLS」でも管野美穂と西島秀俊の二人が人形のように雪
    景色の中を延々と歩いた。雪一面の世界はある種の永遠性を表しているのかもしれ
    ない。そうすると昭和の不可解な行動も娘の捜索を通りこして父の娘への想いの永
    遠性を表しているのかもしれない。―― 好意的に解釈すればそういうことになる。
     
      【ちょっと悪ふざけ】
       込み入った本作の語り口をもっとすっきりさせて、ちょっと風変わりな刑事
       ものハードボイルドに仕立てる。雪一面の世界、昭和の背後から刑事の
       銃声1発。胸を撃ち抜かれまさしく風穴があく昭和。
       風穴からモーターやスティールが覗いている。
       昭和は人間じゃなく実はサイボーグだった(笑い)。
       「機械」なら延々と反復運動するでしょ。
       「娘捜索機械」たる藤島昭和。
       私ならそうする。← スイマセン。
       
     冗談はさておき中島監督はクソリアリズムやストレートストリーのアンチとして本来
    エンタメ化できない題材をもエンタメ化しようとしている。それは当節流通するいわゆ
    るエンタメ映画に対するアンチにもなっている。いわゆるエンタメ映画は、石田衣良
    曰くの消費者としての読者や視聴者に向けた映画のことだ。彼らは「カネ払っている
    んだからもっとサービスしろよ」と常に思っている。事あるごとにあられもない絶賛と
    同じくらい不平不満をもらす。(本作の原作タイトルは「果てしなき渇き」だが、まさ
    しく飽くことのない渇きだ)
     役所広司のオーバーアクトさえなければこうまとめられる。
     (私は原作どおり次第に父・昭和が粗暴になる方がいいと思う。なぜならメタモル
      フォーゼ(変身)こそ映画の本質その一なのだから)

     最後に言い忘れたことにふれる。
     ドラッグが本作の重要な要素であります。
     この映画は血まみれ、車のクラッシュ、銃撃戦と衝撃映像が続く。
     これはおそらく中島監督も気づいていないと思うが、TVでたれ流されている「世界
    の衝撃映像」を観続けるとサブミナル効果としてドラッグが欲しくなるのだそうだ。
     (承知のうえでTVは衝撃映像を放送している。恐ろしいことだ。) 
     本作は若者のドラッグを告発するつまりはないだろうし、もちろん奨励するつまりも
    ないだろうが、図らずも本作の衝撃映像はドラッグ誘発へと導くものであるとことを
    付言しておこう。
    
     ミイラとりがミイラになってしまった、かな?
 
                                   (了)


     
      渇き
        トロント国際映画祭出品も決まった。何はともあれ本年度最大の問
        題作だろう。エグイやつは三池さんの「喰い女」の公開がまじかだが。
        こちらはいくらエグくてもきっちりエンタメ化してくるだろう。







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