素晴らしき放浪者の戯言

100年に1度の世界の大転換、50年に1度の日本の政権交代を見届けるブログです。 政治、経済、メディア、都市、映画etcの各分野を放浪しつつ 時たま核心に迫ります。

「1Q84」について VOL.3

〔Ⅱ 親切な春樹先生〕


  よく読むと一筋縄ではいかない小説ですが、この小説は基本的にとても親切な小説です。前節で「入れ子構造」について触れましたが、読者への浸透度、理解度そのものが入れ子構造的であり、ある程度の理解でもそれはそれなりに完結しているとも解せます。
  つまり、天吾と青豆の決して届かない恋愛、すなわち架空のLove Afair―これが表層的
 入れ子。

  親切というのは、読み進めれば、ある程度まで展開が先読みできて、実際、先走り過ぎずかといって複雑でありながらも、もたつくことなくバランスよく新たな事態が訪れるからです。 

 「空気さなぎ」の代筆がバレないことも、戎野先生がベストセラー小説「空気さなぎ」で企
 ていることも、ふかえりの父親が「さきがけ」のリーダー(教祖)であることもことごとく
 予想どおりです。


  「わたしにはいろんなことがわかる。もしあなたさえよければ、
   始めてもらってかまわない。あなたがいつもやっていることを」
 
                       ― Book2 第9章 p201 ― 


  「どうした」と男が声をかけた。
  「わたしは待っているんだよ。その最後の仕上げを」


                      ― Book2 第11章 p239 ―  


  青豆がリ―ダーの暗殺に失敗するはずがないと、容易に察しがつきます。
  と同時に、いつもように手際よく「仕事」をこなすはずもないのです。
  本作はハードボイルドではありませんが、多分のその色彩を帯びていることから、肝心な
 場面では、喉がカラカラ、ヒリヒリしなければならないのです。かといって、「仕事」を終えたあとの「追跡」やら「偽装工作」に力点が置かれるはずもない。とすると答えは自ずから導き出されます。

  リーダーは彼女が自分を殺しにきたことを知っている、いや自ら死を望んでいると。

  ここもほぼ予想どおり、本当に親切な小説です。
  (でも、この「親切さ」も前フリ、ワナなのです)
  ここからの展開は予想を超えた展開となります。
  青豆のことのみならず、あゆみの死も天吾のことも、そして「1Q84」についても、要
 するにリーダーはすべてを見切っているのです。


  「わたしは君について何もかもを知っている。そう言っただろう。
   ほとんど何もかもということだが」

                   ― Book2 第11章 p249 ―
   
 
  Book2 第11章、第13章は、この他にも重要な要素を含んでいますが、それはひとまず置
 くとして、この2章はリーダーがすべてを見切っているばかりか、この小説の重要な要素が軽
 く姿を現すわけであり、いわば「種明かし」のようなものであります。
  映画「陽炎座」の屋台崩しのシーンのように私には思えました。
  つまり、一旦ここで一つの入れ子がはっきり見てとれるのです。  
  もちろん、ここからも物語は進行しますが、終盤までこの章でほのめかされた「1Q84」の
 枠からはみ出るわけではありません。通俗的かもしれませんが、そのままいった方が最後まで親切な小説だったはずです。ところが、そうは問屋が卸しません。この先、さらなる入れ子があり、その先にさらに・・・。
  この辺がこの小説のおもしろさであり、厄介なところでもあり、感心するところであります。
  (「入れ子」といっても、マトリョーシカのように内へ内へと進む訳ではなく、「入れ子」の
    外側に次々と「入れ子」が現れるのです。外へ外へと向かうことによって作品の本質、
    内へ内へと向かう、一種、逆説的世界です。)


                            (つづく)




陽炎座
優作の新境地!?
いや、清順に遊ばれただけかもしれない。
そういえば、清順はどうしているのだろう。






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