素晴らしき放浪者の戯言

100年に1度の世界の大転換、50年に1度の日本の政権交代を見届けるブログです。 政治、経済、メディア、都市、映画etcの各分野を放浪しつつ 時たま核心に迫ります。

この世界の片隅に 前編

     



     多くの人が既に観たであろうこの映画をようやく観れました。 
     いつぞやいきつけのバーに行った際もマスター、常連客、入れ替わり入ってくる客もみ
    んなこの映画の話題で持ち切りで未見の私は一人蚊帳の外でした。

                                    以下、ネタばれを含みます。



    〔ええんじゃよ、ええんじゃよ〕~ かつて美しかった日本~

     「聖地巡礼」なんて言葉が昨年の流行語大賞にノミネートされた。
     アニメ、ドラマのロケ地を訪ねることを言うのだが、この映画の舞台、広島、呉とは少し
    ロケーションがずれるのだが、瀬戸内海沿岸の広島県の街というと、大林宣彦監督の
    尾道3部作が思いだされる。特に「時をかける少女」は角川映画特集をやれば必ずリス
    トアップされる1本だ。本作がデビュー作の原田知世がジュブナイルの世界を見事に体
    現していると誰もが認めるだろう。
     リアルタイムで観た時は気づかなかったが、再見してみて気づかされるのはジュブナ
    イルの世界のベースになっているのは尾道という瀬戸内海の街の持つゆるやかでたお
    やかな世界だということだ。これを最も体現しているのは上原 謙、入江たか子の2人
    が演じる老夫婦だろう。大林監督はジュブナイルの世界と共に尾道の持つこのゆるや
    かでたおやかな世界をフィルムに定着させたかったのだと思う。

     随分とまわり道したが、「この世界の片隅に」で忘れてはならないのは、広島、呉とい
    う瀬戸内海の街のゆるやかでたおやかな世界が基本のトーンだということだ。
     公開時、「時をかける少女」のゆるやかでたおやかな世界に気づかなかったのは、私
    が若かったせいもあるが、あの当時はまだどこかでゆるやかさやたおやかさが残って
    いたからだ。今や都会ではこれらはほとんど残っておらず、せわしなく、ぎすぎすした世
    界に変貌してしまった。 
     本作の魅力は、のんが声優つとめるすずさんのキャラクターによることは言うまでもな
    いが、すずさんが許容されるのはゆるやかでたおやかな世界がベースとなっているか
    らだ。
     残念ながら、おそらく現代においてはすずさんのようなキャラクターはいじめられる存
    在だと思う。


     広島というと最低もう1本、忘れ難い映画があげられる。
     もちろん、小津安二郎監督の「東京物語」だ。
     広島から状況した笠 智衆、東山千栄子演じる老夫婦が長男夫婦、長女夫妻にじゃけ
    んにされ、結局、一番親身になってくれるのは原 節子演じる戦死した次男の嫁・紀子
    だったというストーリーだ。そんな紀子に笠 智衆が感謝の言葉を述べると、紀子は
    「私、そんないい人じゃないんです。戦死した夫のことも忘れてしまうこともあるんです」と
    答える。
     これを受けて淡々と笠 智衆が「ええんじゃよ、ええんじゃよ」と返す。
     この「ええんじゃよ」という言葉には、ゆるやかさとたおやかさをベースに艱難辛苦をの
    り越えた先の許しと寛容と達観が満ちていると思う。
     「この世界の片隅に」の登場人物はゆやかでたおやかな世界に生きているだけではな
    く、貧乏、不幸、戦争の影を「ええんじゃよ」の精神でやり過ごしているように思える。
     食うものがなくても、つらくても、戦争に息子とられようと、すずさんのように爆弾に右腕
    をもがれようとも。
     すずさんの義姉・径子さんのように娘・晴美を失って感情を露わにしても、結局は「ええ
    んじゃよ」の精神に落ち着く。現代ならそんな簡単には済まないだろう。
     彼らはみな、不幸、不遇、貧乏に不平・不満言うこともなく、許しと寛容の精神に満ちた
    「ええんじゃよ」を胸につつましくもけなげに生きているように思える。  
     これらはすべて現代日本には存在していないものだ。
     幕末、明治、大正、昭和(戦前)と日本を訪れた外国人の多くがその美しい風土に心奪
    われたと共に貧しくも「美しい日本人」に驚嘆した。

     かつて、日本は美しかった。

     戦前、戦中を知らなくても、我々は遺伝子レベルでこれを知っている。
     だからみんなこの映画に魅かれるのだ。

                                            (つづく)




     
     すずさんの親世代がやがて「東京物語」の笠 智衆、東山千栄子夫妻となり、
     すずさんの義姉・径子世代が「時をかける少女」の上原 謙、入江たか子夫妻
     となっていくだろう。 









スポンサーサイト

映画 | コメント:0 |
<<パパブッシュ集中治療室へ | ホーム | トランプ記者会見は日本のマスゴミに影響するか?>>

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

| ホーム |