素晴らしき放浪者の戯言

100年に1度の世界の大転換、50年に1度の日本の政権交代を見届けるブログです。 政治、経済、メディア、都市、映画etcの各分野を放浪しつつ 時たま核心に迫ります。

おんりーいえすたーでい Part Ⅳ 「ウォーク・ドント・ラン」 (後編)

  



  ◎ 1980年と1981年 
   
   この対談が行われた80年、上梓された81年はどんな年だったのか概観しておこう。 
   
   〔1980年〕

     〇 ヒューレット・パッカード社が同社初のパーソナルコンピュータを発表。
     〇 ポール・マッカートニーが大麻所持の容疑で成田空港内で逮捕される。

     〇 任天堂が初の携帯型ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」を発売。
 
     〇 光州事件が起こる。

     〇 大平正芳首相急死。内閣総辞職。
     〇 初の衆参同日選挙
 
     〇 ルービックキューブが日本で発売。

     〇 イラン・イラク戦争勃発。

     〇 山口百恵の引退。
     〇 巨人軍長島監督退任。
     〇 巨人の王貞治選手が現役引退。

     〇 ジョン・レノン銃殺事件。

     〇 1980年代アイドルブームが到来。
       松田聖子、田原俊彦、岩崎良美、河合奈保子、三原順子、柏原よしえ(現・芳恵)
       らが相次いでデビューした。

     〇 イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の欧米での人気が日本にも飛び火。
       テクノポップブームが巻き起こる。

     〇 ビートたけしブレイク。まんざいブーム始まる。



   〔1981年〕

     〇 ロナルド・レーガンが第40代アメリカ合衆国大統領に就任。
     〇 レーガン米大統領が経済再建計画(レーガノミックス)を発表。
     〇 レーガン米大統領がワシントンD.C.の路上で銃で胸を撃たれ重傷。
 
     〇 スペースシャトル コロンビアが初のスペースシャトルミッションで打ち上げ。

     〇 仏大統領選挙でミッテランがジスカール・デスタンを破り当選。 
     〇 マハティール・ビン・モハマドがマレーシア首相となる。
     〇 中国共産党第11期6中全会で文化大革命が完全否定される。
     〇 エジプト・サダト大統領暗殺。ムバラク副大統領が後継大統領に就任。
     〇 ギリシャが欧州諸共同体に加盟。
     〇 ヴォイチェフ・ヤルゼルスキポーランド首相、独立自主管理労働組合「連帯」
       による共産主義政権反対運動を牽制するため戒厳令施行。
     
     〇 鈴木改造内閣発足。

     〇 ダイアナ妃、チャールズ・ウィンザー(イギリス王子)と結婚。

     〇 ピンク・レディーが後楽園球場でのコンサートを以て解散。
     〇 フジテレビの長寿番組『スター千一夜』が22年半の歴史に幕。
     〇 巨人がパ・リーグの覇者日本ハムを4勝2敗で下し、V9最終年以来となる
       日本シリーズ制覇。

   80年代というが、80年はまだ古い流れ(70年代)が色濃く残っていて、新しいもの
  (80年代)が出始めたというくらい。81年になると、いよいよ新旧に入れ替わりが
   はっきりとしてくる。特にミッテラン就任はEC統合の第1歩、ポーランド「連帯」ワレサ
   の登場は東欧共産主義の最終章を告げると言われる。80年が米国大統領選であり、
  81年には中国で「文化大革命」が完全否定されるなど時代の変わり目である点は今に
  通じる。
   そんな時代に二人の村上は対談した。





  ◎ 畏怖する春樹 安堵する龍

   話題は村上 龍の(当時の)新作「コインロッカー・ベイビーズ」におよび、あられもない
  村上春樹の村上 龍賛辞に明け暮れる。

    春樹  ぼくはこの間「コインロッカー・ベイビーズ」を読んだんです。
        どうも本人を前にするとなんだかいいにくいですよね。でも、あれはね、
        やっぱい一気に読んじゃったんだな、おもしろかったし、6、7時間位
        で。それで読み終えたあとで2、3日、う~ん、おもしろかったな、
        って感じでぼんやりしてたんだけど、しばらく時間が経ってから、ある
        種のショックがありましたよね。空気の壁のような何かにぶっかったみ
        たい。何にぶつかったのかはつかめてないけれど。

                 ~ 「ウォーク・ドント・ラン」 p55 ~



    春樹  (前略)ただ、そのバイブレーションの危険性というのは、個人的な
        感性的、生理的バイブレーションを、どこまで普遍化できるかってこと
        だと思うんだけど、村上 龍の場合はその危うい境界線をパワーでグッ
        と押し切ったわけで、これは凄いよね。本当に尊敬しちゃう。

                      ~ 同書 p58 ~
  

  新作に限らず春樹の龍賛歌は続く。

    春樹  ぼくは龍さんの小説読んでて、村上龍というのは非常に才能があるし、
        ぼくはすごい小説家と思うわけ

                      ~ 同書 p102 ~



    春樹  (前略)ぼくだって村上 龍氏みたいに書きたいと思うときもあるよ、
       やっぱり、うん。本当に思うんですよね。あ、こういうふうに書きたい
       なと思うんだけど、書けないんです。
                    
                     ~ 同書 p137 ~
 

   二人はお互いの才能をみとめる存在だが、本書ではやたら春樹の龍賞賛が目立つ。  
   インタビュー嫌いで、「本当に話したい人だけと話したい」と言って憚らない春樹だが、
  本書ではやたら饒舌だ。村上春樹は単なる賞賛を通り越して村上龍の才能に一種の畏怖
  の念すら表明する。

    これは恐ろしい才能だと思います。

   それは多くの村上 龍もどきが産み出されみんな「生理的バイブレーション」に基づい
  た小説を書き出したらとんでもないことになるという不吉な事態への恐れでもあります。
   村上 龍批評は図らずも反射として自らの資質に言及することになる。

    だから何ろかその規範というものを見つけたいと思うわけ。
           
         (中略)

    人と人との関係のほとんどは数字で表されるのがいちばん真実に近いんじゃない
    かって思うことがあるのね。
      
                ~ 同書 p103 p104 ~


   因みに「1973年のピンボール」、「1Q84」、「アンダーグランド」(オウム事件
  で1995年)73年、84年、95年ときたのだから次は2006年じゃないのかしらん。

   「規範」と関連するかどうか定かではないが、「切符自動販売機」に並んだ際に小銭を
  あらかじめ用意しておくのが普通じゃないかとするあたりはいかにも京都生まれらしい。  
    
    これが、なんというか、「切符自動販売機」型のモラルなんです。
    それだけのこと。 
                    ~ 同書 p100 ~


   「~ それだけのことだ」は初期春樹節だった。
   学生の頃、仲間うちで「~ それだけのことだ」とマネをして「お前、ハルキっているな」
  なんて言い合っていた(笑い)。

   何を与太話をしてるんだと思われるかもしれないが、この「それだけのこと」はやはり
  彼を第一義的に決定づけている。「それだけのこと」だから「ぼくは自分で抑えちゃうん
  ですよ、感動みたいの」とならざるを得ないし、「それだけのこと」の積み重ねが「規範」
  を生む。「それだけのこと」が風景と登場人物をペラペラにする、書割化する。
   誤解のないように付言するが、「それだけのこと」と言い切るには知性と蘊蓄と経験と
  修練と技巧が必要なことは言うまでもない。
   「それだけのこと」と言い切る村上春樹は冒頭で村上 龍が指摘したようにどこを切って
  もシティーボーイなのだろう。

   さて、一方村上 龍は村上春樹をどう思っているのか、あとがきに表れている。

    ある作家の出現で、自分の仕事が楽になる、というのがある。
    他者が、自分をくっきりとさせるのである。  
    ただし、そのためには、他者に相応の力がなくてはならない。

          (中略)

    「お前がデビューして、俺は楽になった」
    私は、中上健次からそう言われたことがある。
    同じ意味のことを、私は村上春樹に言った。

          (中略)

    私は村上春樹の小説を読んで、次のようなことを自分に言い聞かせた。
    長いものを書く。
    登場人物達の出会いと反応を克明に書く。
    「会話」を軽視しよう、そして登場人物の行動で物語を進めよう。
    熱狂を書く。
    そのためには、イメージは最初から全開でなければならない。


   以後、本書のタイトル、ヴェンチャーズ「ウォーク・ドント・ラン」を二人の少年が
  聞いているもじりを交えて自分と春樹の関係についてふれる。

    僕らが演奏家だったら、あのいかした曲を、ギターとベースで一緒にやれるの
    になあ、そう考える。

    小説家は、同じ曲を演奏することはできない。


   お互いを認めつつも対照的な二人を締めくくるにふさわしい一文だ。

                              (了)



    



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